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 陽菜さんが美帆さんの頬を平手で打ったのだ。止める間もなかった。突然のことに、美帆さんが言葉を失った。頬に指を這わせて、目の前の幼なじみを呆然と見やる。
 陽菜さんは容赦なかった。
「いつまでも男に甘えないで!! そんなので本当に幸せになれると思うなら大間違いよ! この人だっていつまであんたのそばにいるか分からないんだから!!」
「うるさい! 帰って。もう帰って!!」
 叫んで美帆さんはその場にうずくまった。聞く耳はもたないと言わんばかりに、背中を向けて身体を縮ませる。
 それ以上、陽菜さんはなにも言わなかった。無言で踵を返すと、彼女はそのままリビングを出ていく。僕は思わず彼女を追いかけた。
 ……なぜ彼女たちはこううまくいかないのだろう。陽菜さんは美帆さんのことを心配しているのだ。美帆さんだって陽菜さんのことが嫌いじゃないのに。
「陽菜さん!」
 玄関先で呼びとめれば、靴をはいた彼女が僕に背中を向けたまま、ふと動きを止めた。
「陽菜さん。美帆さんはきっと本気で言ったわけでは、」
「……分かってるわ」
 帰ってきた声は小さく、まるで震えるようだった。どきりとして彼女を窺えば、陽菜さんはぐっと唇をかみしめて、泣きだすのをこらえているようだった。
「……知ってるわ。美帆はね、寂しいの。ただ構ってほしいの。愛されたいのよ。ここのうちの両親は最低。仕事だとかなんだとか言っていつも美帆のことを放りっぱなし。心配して出張先から電話? 娘と連絡つかないっていうのになに悠長なこと言ってるの? 娘が具合悪くしてるのにも気づかないのよ。バカみたい!!」
 叫ぶように彼女は言った。
 それからキッと僕の方を振り返る。
「あなたは美帆のことを守れるの? ずっとあの子のそばにいられるの?」
「僕は、」
「記憶もなくて仕事もしてなくてただここで囲われているだけのあなたに、美帆をきちんと守れるの!?」
「────」
 返す言葉がなかった。
 絶句する僕を見やり、苛立ったようにふいと顔をそむける。
「……あともう三日ほどで、あの子の母親が帰ってくるわ。もし本当に美帆のことが好きなら、中途半端になんかしないで」
 言い置いて彼女が足を踏み出した。玄関の扉に手をかけて、外に向けて開く。と、外に出る直前に不意に足を止めて。
「ゼリー、明日までに食べさせてね」
「…………」
 そして彼女は出て行った。

 リビングに戻れば、美帆さんはさっき床にうずくまったままの姿でいた。
 震える背中が、ひどく小さく見えた。
 ──美帆のことを守れるの? ずっとあの子のそばにいられるの?
 ──大切なものが見つかったら、あたしのうちから出ていくの?
 陽菜さんの言うことは正しい。記憶もなく職もない僕が本当にいつまでもここにいられるとは限らないのに。
 だけど切ないほど僕はリビングの床で震える彼女のことを愛おしく思うのだ。
 この気まぐれで寂しがり屋の少女を。


To be continued
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水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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