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「……本当に美帆の家にいたんだ」
 目の前に立った少女は美帆さんより少し背が高い。驚いた様子の彼女の、けれど落ち着いた空気になぜかほっとして僕は笑いかけた。
「ええ、いますよ。こんにちは。陽菜さん」
「美帆、いる?」
「いますよ。あがりますか?」
「うん。……なんか美帆、最近、様子が変だから」
 悄然と頷いた彼女の心づかいが微笑ましく、私は彼女を家に招いた。
 近所に住んで幼なじみというだけあって、玄関をあければ彼女は案内もなしにまっすぐリビングに向かった。リビングに続くドアが開く音で美帆さんが振り返る。
「ハル、遅い! なにやって──……陽菜?」
「美帆、」
「ちょうど玄関先でお会いしたので、」
 あがってもらいました、と言う前に、憤然と美帆さんが立ちあがった。
「なにしにきたのよ! ハルも! なんで勝手に入れてるの!?」
「…………」
 予想以上の反応に、リビングに足を踏み入れたその場で、私も陽菜さんも思わず言葉を失っていた。そしてそれに対する反応が早かったのは、陽菜さんの方だった。
 きっと眦をあげて、ずかずかと中に入っていく。
「勝手に入って悪かったわね。だけどあんたが悪いのよ! あんたが電話に出ないってあんたのお母さんがうちに連絡してきたのよ」
 言いながら腕に抱えてきた荷物を、リビングのローテーブルに乱暴に置いた。
 僕は慌てて彼女のあとを追った。美帆さんも立ちあがっているから、家の中だと言うのに三人して立って向き合っていることになる。
 美帆さんの歪んだ表情を無視して、陽菜さんはおいた包みを指さす。
「これ、ゼリー。食欲ないって言ってもゼリーぐらいなら食べられるでしょ。あたし、それ持ってきただけだから!」
「……手作りですか?」
 包みの中には、小さなグラスが六つほど入っていた。中には手作りらしい果肉入りのゼリーがつまっている。オレンジ、キウイ、ぶどう。……最近、食欲がなく塞ぎこんでいる美帆さんのために作られたものだろう、と予想がついた。
 さすがにそれを見て一瞬、美帆さんも口を噤む。
 乱暴な物言いをしながらも、陽菜さんは美帆さんのことを心配しているのだ。
「これ食べて、母親に電話でもメールでもいいから連絡しなさいよ!」
「……お茶を淹れましょう。ね、美帆さん。みんなで一緒に食べませんか」
 ここでこれを食べなければ、今日もまた食事を抜いてしまうかもしれない。そう思って提案すれば、美帆さんがまるで泣きそうな顔をした。
「陽菜さんもお茶、飲んでいかれませんか」
「…………」
 二人ともが気まずく黙りこむ。それを了解の返事ととって、私はキッチンに向かった。
 お湯を沸かし、ポットを温めてから、茶葉を淹れる。
 その間に美帆さんはふてくされたようにソファに座り込み、クッションを抱きしめていた。陽菜さんは迷った挙句、フローリングに直に座りこんでいる。お互い、目も合わさず口もきかず、沈黙の中で座りこんでいた。
 僕も黙ってティーカップを三つ用意して、ポットと一緒にロウテーブルに持って行った。
 その瞬間だった。
「っ、」
 突然美帆さんが顔を歪めた。手の甲で口元を押さえる。
「……美帆?」
 訝しく名前を呼んだ幼なじみをはっと振り返った。まるで傷ついたような顔をして、次の瞬間その顔が苦しげに歪む。勢いよく立ち上がり、僕と陽菜さんから顔をそむけた。
「やめて! 食べたくないわ!!」
「美帆?」
「お茶なんかいらない! 気持ちが悪いのよ。食べたくないの!! 陽菜も帰って!」
「美帆さん?」
 急に態度を変えた彼女に、僕と陽菜さんはうろたえた。やっぱり反応が早かったのは陽菜さんだった。
「なにそれ? せっかく持ってきたのにその言い草はなに?」
「どうせうちの母親になんか言われたんでしょ!? なにがせっかくよ? 押しつけがましいのよ。お節介はもうやめて!」
 感情的な言葉の投げ合い。
 二人とも立ち上がり、また言い合う姿が胸に痛く、僕は二人の間に割り込んだ。
「落ち着いてください。美帆さん、お友だちにそんなふうに言うのは、」
「あたしは悪くない。勝手にきた陽菜が悪いのよ!」
「いいわよ! もう二度とこんなところ来ないんだから!」
「来なくていいわ! 私にはハルがいるもの。ハルがいるもの! ハルがいるもの!!」
「美帆!!」
 一閃。
 パンッと音がなった。


To be continued
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水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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