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 思いがけず真剣な声で呼びかけられ、え? と顔を上げる。一瞬にして彼は空から、目線が合うよう私のところまで降りてきた。
「ひとつだけ、いい?」
「アーチィ?」
 一瞬の豹変。
 不意に彼は、威圧的とすら感じるほどの熱意をもって私と対峙した。
「セシルは──セシルは、レイのこと、どう思っているの?」
「え?」
 思わず問い返していた。アーチィはいつにない真摯な眼差しで私を見つめている。先に視線をそらしたのは私だ。
 沈黙を、風が通り抜ける。乱れた髪をかきあげながら、私は言葉を選んだ。
「……いきなり、どうしたの」
「いきなりじゃないよ。ずっと気になってたんだ。さっきの聞いて余計に思った。……セシルは、レイに同情的だね。ちがう?」
「アーチィ」
 肉体のないこの姿には心臓がないのに、どきりと心臓が跳ねるような気がした。もしくは胸がすっと冷えるような。
 アーチィの眼差しには責める色はない。ただ私の心を知りたいだけだ。私は知っている。だけどなぜか後ろめたいような気分が湧いて、そんな胸の内を隠すよう私は真っ直ぐに視線をあげた。
「同情なんてそんなつもりはない」
「セシル」
「本当にそんなつもりはないよ。ただ、私はシアが──」
「シアのことでセシルが負い目を感じる必要なんてないんだ」
「────」
 まるで言葉を遮る勢いで断言されて、私は言葉を失った。
「双子だからってシアのことはセシルには関係ない。セシルが傷つく必要なんてないだろ」
「アーチィ」
 彼は私のことを分かりすぎるくらいに分かっている。なにに傷つき、なにを望み、なにに抗っているのか。……だけど私には、〈私〉が分からない。
 私を気遣う半身に、私は返す言葉を探していた。でも見つからなかった。
「……じゃあ行くね」
 アーチィは目を細め、静かに微笑んだ。アーチィ、と彼の名前を呼ぶ間すら与えられず、彼は宙に溶け込み、姿を消した。彼の姿の残像を追って空を見上げたが、ただ蒼い空。
 風が吹いた。優しく、まるで慰めるように。
 白銀の髪が静かにそよぐ。──シアと同じ色の髪が。
 私は分からない。
 ……同情じゃない。ただ私は分からないんだ。何が正しい選択なのか。〈彼女〉が選んだ道が、〈少女〉の想いと〈シヴァージ〉の望みの行方が。
 ──シア、なぜ裏切った。
 その選択の正しさが分からないから。
 ──なぜ赦した。
「……レイ、」
 名前を口にすれば、それだけで一瞬にして彼は目の前に現れていた。
 血のように赤く昏い色をまとった悪魔。
 私の双子の〈半身〉。
「よくその荒ぶる気配を隠せるものだな」
「……君の坊やは気づいていたさ」
 ならばアーチィはレイが近くにいると知ってあの質問を投げたのか。
 レイはサングラスをしていなかった。いつもの揶揄するような態度もなかった。ただ彼はまっすぐに私を見た。私もまっすぐに見つめ返した。
 ……いつだって、私と彼の間にはどうしようもなく触れがたい痛みが横たわっている。
 けれど。
「レイ、教えてくれ」
 私は彼に問わずにはいられなかった。
 お互いの痛みを抉ることになると分かっていても。
「……なぜ、赦した?」
 あれほど長く待ち続けた半身の裏切りを。
 シアの離反を──なぜ。
 彼は一度も視線をそらさなかった。シアとそっくりの私を見つめたまま、ただ静かに微笑んだ。
「──愛しているから」


To be continued
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水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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