上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
 



 ──屋上においで。
 ──ひとりで、屋上においで。
 耳元で囁きこめば、人の心は簡単に動かせる。それは私たち天使と悪魔の力でもあった。
 シヴァージと〈少女〉が離れている時間は、彼女が学校に行っているときくらいしかない。彼女への説得にシヴァージの存在は邪魔だった。だから私たちは学校校内にいる少女に囁き、彼女の行動を誘導した。
 日頃出入り禁止の屋上へのドアの鍵は開けてある。
 その日一日の授業が終わったあと。いわゆる放課後という時間に、彼女は私たちに呼び出されたとも知らず屋上にやってきた。
 ──青空。
 薄い白い雲が流れていく。
 彼女は屋上にあがって不思議そうにまわりを見回した。そして、屋上の片隅の柵に寄りかかる私たちの存在に気がつく。
 え!? と彼女は声をあげて驚いた。それからもう一度周囲を見回して、自分のいる場所を確認する。きっとなぜ今自分がここにきてしまったのか分からなかったのだろう。それもそうだ。私たちが彼女の無意識に訴えて誘いだしたのだから。
 私とアーチィは声をそろえた。
「やあ、こんにちは。原嶋美帆さん」
「っ、」
 怯えて彼女は後ずさった。……まあ、常識的な反応と言える。それから彼女は恐怖のためかおぼつかない手つきでスカートのポケットを探って携帯電話を取り出していた。震える手で携帯電話のボタンを押そうとする様子はなんだか滑稽にすら見える。アーチィが声をたてて笑った。
「君さあ、なんでそんなに怯えているの? そんなに後ろめたい?」
「っ!! な、なにそれ!?」
 もともと負けん気の強い性なのか、アーチィに揶揄され、まるで反射的な動きで彼女は勢いよく携帯電話を閉じた。ぎゅっと携帯電話を身体の横で握りしめて、私たちを睨みつけてくる。
 意思の強い人間は嫌いじゃない。私は少し笑んだ。
「異論があるならそれを置いて、私たちと少し話そう。原嶋美帆さん」
「なんなの! なんなのあんたたち、この間から一体!!」
 少女がヒステリックに叫ぶ。それを軽くいなすようにアーチィが肩をすくめた。
「なにって、だからこの間も言ったじゃない」
「私が天使で、」
「僕は悪魔だよ。あ! ちなみに角とか尻尾とかないからね!」
 すぐ変な誤解とか想像とかされちゃうんだよね、と私の隣で悪魔がぼやく。驚いて、というよりも理解不能といった感じで少女が言葉を失った。
 遠くで鳶の鳴く声がした。
 風が吹いて、彼女の制服のリボンを揺らす。
 ……静かだった。それは私たちが今この空間を隔絶しているからだった。邪魔が入らないよう、この屋上のことが人の意識に入らないように仕向けている。
「……なんなの?」
 やがて少女が小さく呟いた。小柄な彼女は勢いを失うと、ひどく弱々しく見える。そう、彼女は普段は精いっぱい強がっているに過ぎないのだ。
「──私たちは〈彼〉の友人なんだ。まずは〈彼〉を助けてくれたことにお礼を」
「ありがとねー」
「それからあなたには相談を」
「僕たちの相談、聞いてくれる?」
「……なんなの?」
 たたみかけるような私とアーチィの言葉に、少女は怯えた様子でもう一度そう呟いた。
「〈彼〉を返してくれないか」
「……え?」
「〈彼〉を解放してほしいんだ。〈彼〉のことは諦めてほしい」
 彼女は目を丸くして私たちを見た。……諦める? と呟く。
 清々しい空の下で、私たちは重々しく向き合っていた。彼女の感情が時間をかけて、どんどんと重くなっていくのが分かる。
 うつろな眼差しがゆっくりとあがって、私をぼんやりと見つめた。


To be continued
----------
にほんブログ村 小説ブログへ

ブログランキング・にほんブログ村へ


FC2 Blog Ranking
 
Comment






(編集・削除用)

 

管理者にだけ表示を許可
Trackback

http://smallgrass.blog3.fc2.com/tb.php/88-b6aa0813
プロフィール

水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。