上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
 




   8 正しい選択



 ──セシリィ。
 そう彼女は昔ながらの愛称で呼んだ。同じ声質でありながら、静かで弱々しく柔らかな声で私に呼びかけた。
 ──セシリィ、どうか。
 ──どうか分かってほしい。これが最善の選択なのだと。もうこうする以外に道はないのだと。セシリィ、私の愛する天使、もうひとりの私、愛しい妹。……もうこうする以外に、どうすることもできない。これが私の選ぶ道──。
 彼女には迷いがなかった。私と同じ蒼い瞳がまっすぐに私を見つめた。
 なぜ! と叫ぶように問うていた。
「なぜ裏切る? なぜ置いていける? あれほど求めていたものを、あれほど求めてくれた存在を、なぜそんなに簡単に見捨てることができるんだ……!」
 問いはむなしい。
 彼女の選択は覆らない。
 彼女の罪は決定だった。
 人間の少年に恋に落ち、惑い、彼と接触し、その彼の記憶を消さなかった罪。人界の調和を乱したことにより地上への降下を禁じられながらも、禁を破り地上に降りた罪。そして肉体の契約を結んで地上に堕ちた罪──。
 もう彼女は天使ではない。
 ともに生れ、同じく天使として覚醒した双子の姉シアは、自ら天使を辞めたのだ。半身である悪魔レイを残して。
「……セシル」
 呼ばれて顔をあげた。
 人気のないビルの上にいた。夜だ。シヴァージと接触したあと、私たちはまた高いところにのぼって地上を眺めていた。
 ビルの屋上の縁に設けられた頑強な柵の上に座って、アーチィが心配そうに私を見下ろしている。彼の心配に応える言葉もなく視線をそらせば、少しためらってから彼はふわりと身体を浮かせて、柵を背に立つ私の目の前に移動してきた。屋上の縁に足を置き、まるで私を腕の中に閉じ込めるふうに、柵を掴む。
「セシル。……シヴァージの記憶は戻らないよ」
「……ああ」
「思った以上に肉体の浸食も激しい」
「そうだな……」
 私は目を閉じる。アーチィの言わんとすることは分かった。
 ──このままだとシヴァージは堕ちる。
 肉体の契約は彼の魂を侵し始めていた。契約を継続すれば、やがて彼は確実に戻れなくなるだろう。堕ちれば、彼が誕生を望んでいる彼の〈半身〉である悪魔は生まれながら〈不具〉と成り果てる。レイのように、中途半端で不安定な存在になってしまう。それはどうしても避けるべき事態だった。
「早く次の手を打たないと」
「……彼女の説得か」
「僕、ひとりで行こうか?」
 私は目を開けて、目の前の悪魔を見やった。
 アーチィは私に過保護だ。
「大丈夫だよ。さっきはごめん。少し熱くなった」
「セシルは悪くないよ! あの子が傲慢なだけ! あんなの、セシルが相手しなくてもいいんだ」
 優しい私の悪魔。……私のために傷つく必要などないのに。
 私は、大切な〈半身〉に笑いかける。
「一緒に行こう、アーチィ。……そばにいてくれ」
「うん」
 私の言葉に、彼は本当に嬉しそうに笑った。


To be continued
----------
にほんブログ村 小説ブログへ

ブログランキング・にほんブログ村へ


FC2 Blog Ranking
 
Comment






(編集・削除用)

 

管理者にだけ表示を許可
Trackback

http://smallgrass.blog3.fc2.com/tb.php/87-64a9d95f
プロフィール

水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。