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 あたしの、たぶん不躾な視線を受けた黒いスーツが、うーんと顔をしかめる。
「最悪の事態だ」
 言葉のわりにはのんきな口調でそう言った。白いスーツは無表情のまま黙っている。
「ハル、誰なの? 知り合い?」
「……よく、分からないんです」
「だーかーらー、僕たち、君の友人だって言ってるんだけど!」
 黒いスーツはそう流暢な日本語を普通に話した。生粋の日本人か、という感じの滑らかさは、不自然さを超えて、あたしはなんだかすとんとそれを受け止めていた。戸惑うハルを押しのけて、あたしは彼に向って口を開いた。
「ハルは記憶喪失なのよ。……あなたたちは、ハルの知り合い?」
「──ハル? ……ああ、ハル。なるほどね。うん知り合いだよ。古い友人です」
「でも、覚えていません」
「……思い出してほしいから、逢いにきたんだけどね」
 ふう、と黒いスーツは息を吐く。やれやれと言いたげな仕草は嘘を言っているような印象はなかったけれど、どう考えても怪しいふたり連れだった。……というか、その影かたちから態度までなにもかもが怪しすぎると思う。
「ハル、本当に覚えていないの?」
「…………」
「あなたたち、ハルの友だちなら、ハルの本当の名前は? ハルはどこから来たの? あなたたち何者?」
 問えば、黒いスーツは困った顔をして白いスーツの方にちらりと一瞥を送った。と、白いスーツの方が静かに眼差しをあげる。深い蒼い眼差しがあたしをまっすぐに見て、思わずぞっと背筋が震えた。怖い、と思った。反射的にあたしはハルの手を握っている。
「〈彼〉の名前はあなたに教えられない。悪いが、あなたには少し席を外してもらいたい。私たちと彼だけで話がある」
「な──に、それ。冗談でしょ。ハルが行き倒れているところをあたしが助けたのよ!」
「だから?」
「────」
 問い返されて、答えに詰まった。だからなんの権利がある? と眼差しがきつく問いかけている。あたしはぎゅっとハルの手を握る力をこめた。
「……今、ハルは、あたしのうちにいるの。あたしが面倒をみているの。あたしにだってハルのこと、聞く権利あると思わない?」
「くだらない主張だな」
 白いスーツがあたしの言葉を一蹴した。まるで軽蔑するような目であたしを見る。
「あなたは自分のために〈彼〉の面倒をみているんだろう? それなのに権利を主張するとは恩着せがましいと思わないか?」
 ──あたしのため!?
「っ、」
「天ちゃん!」
 わっと溢れた怒りに任せてあたしが言い返しかけるより先に、慌てた様子で黒いスーツが白いスーツの腕を引いた。
「出直そう。これ、本当に最悪の事態、」
「……分かった」
「逃げるの!?」
 たったそれだけのやりとりで、すぐにでもその場を離れそうになったふたりに思わずあたしはそう呼び止めていた。不愉快だった。すごく奇妙で、いやな感じがした。……予感と言ってもいいかもしれない。今にも悪いことが起きるような、不穏な感覚。
 だけど白いスーツの青年はもうあたしを見ていなかった。あたしの隣で、うろたえ呆然とたちすくんでいるハルに目を送り──少しだけ、悲しげに笑んだように見えた。



To be continued
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水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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