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   7 幸せの代償



 ハルは優しい。
 ハルはあたしのためになんでもしてくれる。いつもそばにいてくれて、あたしを見ていてくれる。
 ハルは今までの人とは違う。
 ハルはきちんとあたしだけを見てくれる、
 ──そう、あたしだけを。

 昨日はひとつ〈良いこと〉をした。外国の人に道を聞かれて、教えてあげたのだ。天使のサイトで報告したら〈良いこと〉に認定された。……これで三十二個。百個までにはまだまだだけど、大丈夫だ。今日の報告では、天使様には褒められたのだから。
 ──素晴らしいことをしましたね。あなたの行いがその方たちを助けたでしょう。あなたのその一歩には価値があります。焦らずに進んでいきましょう。
 天使様はあたしを見てくれている。〈良いこと〉を百個集めたら、きっとあたしは幸せになれる。こんなふうに頑張ったらきっと幸せになれる。あたしは自分にそう言い聞かせる。だって頑張ったらその分きちんと返ってこなければおかしいじゃない。代償が返ってこない世界は嘘だと思う。
 あたしは幸せになりたいの。
 あたしを見て。あたしだけを見て。あたしを愛して。あたしだけを愛して。
 じゃなければ意味がない。
「原嶋」
 声をかけられてあたしはその途端気持ちがささくれ立つのが分かった。
 塾の入った雑居ビルを出てすぐのところだった。──夜八時半。もうあたりは十分に夜だ。駅前から少し離れたその塾の目の前はビジネス街から繁華街へ続く半端な通りで、やっぱり半端に人が行き交っていた。
 あたしは足を止めて振り返る。追いかけられるよりはその方がましだから。だけど返す声が刺々しくなるのは止められない。
「なんの用ですか」
「なんの用ですか、じゃないだろ」
 困ったような顔をして、本村悟は言い返しながらあたしの目の前までやってきた。その距離感がまるで親しげで、またあたしは苛立つ。
 この人はなんにも分かっていない。こんな塾の目の前で、そんな親しさを見せられても、もう手遅れなのに。
「仕事、いいんですか?」
「どうせいつも帰りは遅くなるんだ。今少し抜けたって問題ないよ」
「……どうでもいいけど、そんなこと」
 あたしはそう言い放って歩き出した。一瞬戸惑った彼がすぐに追いかけてきて横に並ぶ。
「少し落ち着いて話さないか」
「話すってなにを」
「俺と君のことを」
 ──俺と君? なんて大げさな言い方だろう。
 腹立たしさを超えてあたしは呆れた。一回寝ただけなのに、もうあたしのことを知った気になっている。
 あたしは駅に戻る途中にある公園の入り口までたどりついて立ち止まる。公園ではハルが待っている。ハルのところまで本村悟を連れていく気はなかった。
 隣を振り返って向き合えば、彼はどこか悲しそうな眼差しをしていた。
「もう終わったことですよ」
「違う。君が一方的に終わらせたんだ」
 その言い草にいらっとした。
「あたしは終わったんだから、終わりでしょ」
「原嶋、なんでなんだ。なんでいきなり終わりになるんだ。なにが気に入らないんだ」
「気にいらないのよ、なにもかも!」


To be continued
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水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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