上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
 
 真也と郁は、そして水江にとってはあまりにも現実的で穏やかな日常でありすぎる。好きだけど大切だけど一緒にいたいけど。
(でも今は)
 もう少し、気持ちが落ち着くまで。身を巣食う苛立ちにも似た異質感を忘れるまで。水江は走る。延々と、ひたむきに。
(……あれ?)
 高校からそう遠くない裏山の墓地まで練習がてらランニングしてきた水江は、坂のふもとでふとそれを見付けて足を止めた。荒い息を整えながら、水江は訝しく目を細める。
 静かに墓前にたたずむ姿が、ある。
 広い墓地の一区画。その片隅の、木蓮の木の下に位置する真新しい墓石に水江は覚えがあった。緩やかな坂を少し上がった、その場所。──実際には覚えがあるどころではなかったが。
 水江は額から流れる汗をTシャツの肩で拭った。 
 八月の鋭い陽射しを墓地の周りを囲う繁った木々が遮り、僅かにそこは涼しい。頭上で深緑が風に揺れる。
 静かだった。水江は茫然と坂の下からその静かに景色に溶け込んでしまったようにたたずむ青年を見上げていた。
 青年の着込んだ白いスーツが木漏れ日に眩しい。八月の初旬。夏の盛りだ。着込んだスーツはいかにも暑そうにも見えるが、それでいてどこかひどく自然だった。それが不思議だった。
 水江は息を整えて、動悸を抑える。わけの分からない感触が身体を捕らえていた。いつもなら、この坂を上がり木蓮の木の下の墓前に手を合わせにいくのだが……。
 それができない。
 水江は首を傾げる。
(……あれ、誰?)
 予想されるのは祖父の生前の知り合い。特に若い手合いなら大学で教えていた教え子というところだろう。
(教え子?)
 ざわりと強い風が吹いて木々が鳴いた。
 何が彼を呼んだのだろう。不意にそれまで微動だにしていなかった青年が、静かにこちらを振り返っていた。
 水江は息を飲む。
(違う)
 その瞬間に水江はそう確信していた。振り返ったその、透き通ったような薄い蒼色の瞳を見た瞬間に。
(違う、この人は……)
 青年は優雅な足取りで坂を降りてくると、水江の前で立ち止まりにっこりと微笑んだ。水江は声も出せないで、彼を見上げた。
 背が高い。目が青い。
(……外国人?)
 目を瞬かせて見上げれば、確かに日本人離れした秀麗な造作をしている。水江はおかしいな、と首を傾げた。青年を目の前にしてしまえば、先程の奇妙な感覚は完全に消え失せてしまっている。青年はそんな水江の様子に気付いた様子なく、にこやかに口を開いた。
「澤水江さんですね?」
「…………」
「澤義文さんのお孫さんの」
 はい、と水江は返した。青年は何の乱れもない流暢な日本語を口にした。
(……似てる)
 ふと一瞬そんな思いが胸を過ぎった。だがそれが誰と似ているのかは、よく分からなかった。
 水江は額に浮かぶ汗を手の甲で拭う。背中がひんやりと濡れていた。それはただ暑さのためだけのものじゃない。
「私、シアと言います」
「……しあ?」
「はい」
 青年は笑顔を崩さずに答える。
 ──静かだ。異様なくらいに人気はない。
「水江さん、私はあなたを」
 静かだった。
 蝉の音さえ聞こえないなんて、それはすでに異常だった。それに、はっと水江が気付いたとき、青年は淀みなく言葉を発していた。
「あなたを迎えに来ました」

--To be continue--

にほんブログ村 小説ブログへ

ブログランキング・にほんブログ村へ


FC2 Blog Ranking
 
Comment






(編集・削除用)

 

管理者にだけ表示を許可
Trackback

http://smallgrass.blog3.fc2.com/tb.php/8-efb4a5fc
プロフィール

水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。