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   6 アーチィ



 釣れたな、と隣に立つ赤髪の悪魔が呟いた。
「……ああ、そうだな」
 応えるセシルの声は精彩を欠いている。
 それもそうだった。僕らは、友人を──友人の悪魔を見つけるために、〈おびき寄せる〉方法をとった。それ自体は成果があった、と言うべきなんだろう。僕らは確かに〈彼〉と出会ったのだから。だけど同時に僕らは大きな問題に対峙することになっていた。
 事故現場から離れ、僕らは適当なビルの屋上に集まり、見つけた〈彼〉の気配を追いかける。
 〈彼〉──シヴァージは僕らの存在に気がついた。だけど〈僕ら〉には気づかなかった。
「あれ、確実に記憶を失ってるよね。降りたときのショックのせいかな」
「案の定、契約も結んでいたな」
「……つーか、問題はあの〈女〉だろ」
 レイがばっさりと言い切った。
「…………」
 僕らは黙り込んだ。
 確かに問題は、あのシヴァージのそばにいた〈少女〉だった。
 シヴァージの気配はこの辺りから離れつつある。電車にでも乗ったのだろう。高いビルの上から、僕らは三人三様の想いで夜の街を見下ろした。闇の中で、ざわつく人の気配。ざっと見渡すその世界に、いくつもの〈生〉と〈死〉が見えた。僕ら以外の仲間たちが、それらを迎え、送っているのが分かる。
 〈生〉を迎え、〈死〉を送ることが、僕ら天使と悪魔の仕事だ。……そう、常に天使と悪魔が一組で、初めて生死の世界が成り立つ。僕らは欠けることのない両輪。天使には悪魔が必要で、悪魔には天使が必要だ。
 だから。
「……シヴァージは、ずっと探してた。ずっと待っていたんだ」
「ああ、知ってる」
 僕の呟きにセシルが小さく頷いた。反してレイはちっと舌打ちを漏らす。
「あいつは辛抱が足りないんだ。たかが十二年だろ。ずっとってほどの長さじゃない」
「レイ、」
 僕は遮るように名前を呼んだ。瞬間、彼は振り向きざま僕の胸倉を掴みあげる。せせら笑うような彼の声は、低く静かで陰鬱だった。
「十二年だぞ? くだらないな。俺たちが待った時間と比べてみろよ。あのうんざりするほどに長い時間と」
「黙れ、レイ!!」
 叫んで僕は、腕を交差するようにしてレイのシャツを掴み上げた。そんなことは今ここで口にするべきじゃなかった。そんな僕らだけの愚痴を、僕は僕の半身に聞かせたくなんかなかった。
 セシルは口を噤んだまま、世界を見下ろしている。
「っ、」
 僕の意図に気づいたのだろう、忌まわしく眉をひそめたレイが突き放すような乱暴な仕草で僕を解放した。ちっともう一度舌を打って、ため息とともに肩をすくめると、唇を歪めて皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「……さあ、次はどうする?」
 僕はセシルに目をやった。
 夜風が彼の白銀の髪を美しくなびかせていた。憂いを帯びた横顔。ゆっくりと彼が僕らを振り返る。静かな表情で僕の天使は口を開いた。
「私たちの仕事はシヴァージを天に返すことだ」
 それを完遂するまでだ、と。
 いっそ冷たいほどの口調で、彼は言い切った。


To be continued
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水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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