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「──!!」
 ガアンッと大きな衝撃音。ガリガリガリッと削るような烈しい音に続いて、なにかが強烈な力で圧し潰され、へしゃげる不快な音が鼓膜を震わせた。
 叫び声。
 ぐおんと大気が揺らいだ。
 身体の中を、なにかが貫いていった。熱く重々しく、けれど清冽ななにかが。
「…………っ」
 ぎゅっと手を握られる感覚があって僕は我に返る。僕より遅れて後ろを振り返った彼女が、僕の手を握っていた。その目は音の発生源を愕然と見つめている。
 ……それは、少し前に二人で渡った交差点で起きていた。
 ほんの十歩も離れていないそこで、一台の車が電柱にぶつかり大破し、もう一台の車が道路の端で横転している。チカチカと車のライトが明滅していた。ゴムの焼けるような匂いがかすかに鼻につく。
 事故だ。
 救急車! と誰かが叫んだ。夜とはいえ駅が近いだけに人通りは少なくなく、現場を囲むようにざわめきが蠢いた。うわひでぇ。やばいんじゃないの。潰れてんじゃん。早く救急車! まじでまずいって。え、なにがあったの。ねえ。……死んだんじゃないの。
 ──そう、死んだよ。
 ハッと僕は弾かれるように顔を上げていた。なにかを感じた。声? いや、まるで肌に触れるような〈意思〉だ。
 事故現場にはあっという間に人だかりができていた。ざわざわと集まる老若男女の群れ。大破した車を覗き込み、なにごとかを囁き合い、興奮する人。人。人。その集団に目を向けた途端に、〈それ〉は視界に飛び込んできた。
 白。
 交差点の向こう側の歩道に集る人ごみの中に見えたのは、まったく汚れのない純粋な白だった。物体というよりは、一瞬光のように見えた。だがよく見ればそれはスーツのようだ。その純然たる白いスーツの横には、光を包み込むような闇が見えた。──二つの黒。人のかたちをした、光と闇。
「……行こう、ハル」
 強く手を引かれて、僕は弾かれるように隣を振り返る。
 彼女は血の気の失った顔をしていた。握った手が震えている。怯えているのだ、と僕は気づいた。突然、衝撃的な事故を目の当たりにして。……他の多くの人々が好奇心をむき出しにして現場に顔を出している中で、そんな彼女の反応を僕は好ましく感じて、なんだかほっとした。
 僕は彼女に優しくしたい。
「ええ、行きましょう」
 事故現場に背中を向けて、僕たちはゆっくりと歩き始めた。手をつないだまま、言葉もなく、寄り添って。
 隣を歩く彼女に心を配りながら、僕は少しだけ後ろ髪を引かれるような思いをした。
 事故。
 人の〈死〉。
 それから、〈彼ら〉。
 人だかりの中に溶け込むように佇んでいた、人のかたちをした光と闇を思い出す。
 ──あれは同胞だ。
 不意にそう閃いた。


To be continued
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水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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