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 塾の始まる時間までに一緒にファーストフードのお店に入って軽く食べて、夜終わるまで待ってて、と言ったら、素直にハルは頷いた。
 ハルはあたしの〈お願い〉なら、なんでもきいてくれる。
 ──お茶淹れて、雑誌買ってきて、三時間ここで待ってて。
 代わりに、あたしは彼に、寝る場所と食べるものと少しの自由時間をあげる。たとえば学校に行っている間だとか、今日の三時間だとか。
 それはハルが〈大切なもの〉を探す時間だ。
 あたしはハルを拾ったし、ハルはその恩義を感じて(というふうに意識しているのか分からないけれど)あたしの言うことをなんでも聞いてくれるけど、ハルのやりたいことを邪魔する気はなかった。
 だって〈大切なもの〉を探すことは、重要だ。
 あたしにとって〈良いこと探し〉がとても重要なように。

 ──〈良いこと探し〉ってなんなんですか?
 塾に移動する間に、ふとハルがそんなことを尋ねた。
「初めて会ったときも言ってましたよね。〈良いこと〉探してるって」
 電車に揺られながら。
 ハルは身長が高い。あたしは彼と話すとき少し仰ぐ感じになる。あたしは笑った。
「そういう噂があるの。良いことをね、百個やったら幸せになれるって」
「百個?」
「そう。しかもその百個はきちんと、天使様に認められなきゃいけないの」
「……天使?」
 ハルの声が低く問い返してきて、あたしは顔をあげる。なんだかハルは呆然としているみたいだった。……話があまりにも突拍子もなくて驚いたのかもしれない。あたしは言葉を重ねた。
「うん。そういうサイトがあってね、会員登録して、〈良いこと〉をしたらそこに報告するの。で、天使様がその〈良いこと〉が認めてくれたら、ようやく一個に数えてもらえるの」
「サイト、ですか?」
「…………ハル、インターネットは分かるよね?」
 不思議そうに首を傾げたハルに、思わずあたしはそう聞いていた。記憶喪失ってそういう社会的な知識も分からなくなっちゃうんだっけ? ハルは少し宙に目をやって、それから考え当てたように、ああと呟いた。
「インターネット、分かります」
「みんなくだらないサイトだって馬鹿にしてるけど。別にお金をとられるわけじゃないし。結構天使様の認める〈良いこと〉ってハードル高くてさ、それを百個ためなくちゃいけないのも、大変なんだよ。今までで実現した人ってほんの一握りでね。でもみんな本当に幸せになれたって報告してるんだー。だからきっとあたしも百個ためたら、きちんと幸せもらえるんだよ」
「……美帆さんは、今幸せじゃないんですか?」
 まるで陽菜みたいなことを言う!
 ハルの問いかけに、一瞬あたしはここが電車だっていうことも忘れて、ハルに食ってかかっていた。
「あたしは! あたしはもっときちんと幸せになりたいの。一番、一番幸せになりたいの。だから〈良いこと〉探すんだから!」
 言いきってから、我に返る。
 平日夕方の都心に向かう電車はそんな混んでいなかったけれど、やっぱり注目を浴びた。それも不愉快でむっと唇を突きだすと、困ったようにハルが顔を歪める。泣きだしそうな、気弱な表情で。
「すいません、美帆さん。僕はただ、あなたが今不幸せだと思っているなら、寂しいなって思ったんです」
「…………」
 ハルは優しい。
 ただ純粋に。
 そう思うと、それ以上怒る気が削がれて、あたしは甘えるようにハルの腕を引っ張った。
「ありがとうね、ハル」


To be continued
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水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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