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「……すいません」
 僕らが最初に目を付けたのは、近くの飲み屋だった。こんな味気のないビルに囲まれた世界の中で一番人の出入りのある所だ。丁度、匂いの残っている路地に裏口のあるバーの従業員を、その日の夜更け──というか早朝から捕まえることができた。
 店の後片付けか、路地にゴミ出しに出てきたところに呼びかける。彼は僕らを見て一瞬ぎょっとした。そりゃそうだ。黒と白のスーツ着た二人組なんか見かけたら普通は驚くだろう。……でもこの驚きようが見ていて楽しいんだよね。
「な、なんですか」
 二十歳半ばといったところの青年が怯えたように、そう返してくる。
 僕とセシルはちょっと顔を見合わせて苦笑した。
「別に怪しいものじゃないよ、僕たち」
「人を探してるんです」
「若い男……だよね、天ちゃん?」
「女になったとは聞いてないからね、男のままじゃないかな」
「そー、若い男の人。多分ちょっとアラブ系の美青年なんだけどさ、あなた、この辺で」
「見かけませんでしたか」
 二人でたたみかけるように尋ねると、青年は怯えたように後退りして青い大きなゴミ箱を蹴り飛ばした。
「なに、な、なに? 人? 知らない、そんなの、俺」
 あ、だめだ。完全に怯えている。つい遊びがすぎちゃったか。
 僕が肩をすくめると、セシルが心得た様子で一歩後ろに下がった。交渉役は僕ということだ。僕は改めて、人好きのするような穏やかでにこやかな笑みを浮かべてみせた。
「や、ごめんなさい。えっと、でもこれは冗談じゃなくて本当なんです」
「……は、あ」
「この路地にしばらくいたことは確かなんですけど、そのあとどこにいったのか分からなくて困ってるんです。多分、そんな昔のことじゃなくて、ここ数日間以内のことなんですけど」
「はあ」
 ようやく落ち着きを取り戻した様子の青年が、今度はまじまじとこちらを見つめてきた。特に僕の後ろのセシルを。……そりゃ美人だからね。でも見せてやらない。僕はさり気なく身体を移動して、セシルを背中に庇ってもう一度にっこりと微笑んでみせた。
「アラブ系の、美青年。年の頃は、いくつくらいかな? 二十前半くらいに見えるかな。ここらへんにいたはずなんですけど」
「……そんなこと急に聞かれても」
「ここでしばらくぐったりしてたんじゃないかな。こっちに来たばっかりで疲れていただろうし」
 天上から地上に降りてきたからって別に体力を使うわけじゃないけど、確かシヴァージは天使になってから初めて地上に降りたはずだから衝撃が強かったはずだ。〈半身〉もいない彼がその衝撃をすぐにやり過ごせたとは思えない。
 こんこんと説明すると、不意に青年はああと声を上げた。
「あの浮浪者、アラブ系だったかも。もしかしたら」
「浮浪者どんなの?」
「どんなのって」
 説明に窮したのか、青年は少しの間口篭もる。
「……一昨日、いや三日ほど前かな。なんか一日中ずっと、そこの壁際の所に座ってね動かない浮浪者がいたんだよね。まあこっちは裏通りだから営業妨害とかそういうわけじゃなかったけど、気味悪いなあって言ってたんだ、確か。そう、まだ若いアジア系だったと思うけど」
「その人、そのあとどうしたの?」
「どうしたって言われても、どっか行っちゃったよ」
「最後に見たの、いつ」
「いつって……」
 僕のしつこさに辟易したのか、最初の怯えた様子から一転迷惑そうに頬を歪ませて、彼は胡乱げに僕らを見た。
 僕はにっこりと最大級の笑顔を見せる。ここで思い出さなかったら、それこそ〈力〉でもって無理矢理思い出させるまでだ。だが、そんな僕の心配もよそに、ため息混じりに彼は答えた。
「……次の日、てゆうか、一日中いたその夜のうちにどっか行ったよ。朝にはもう見かけなかったし、まあ終電もない頃だから、どっか近くの公園でも行ったんじゃないの?」
 僕らはにっこりと笑って彼と別れた。
 それだけで、彼はきっともう僕らのことは覚えていない。



To be continued
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水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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