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「どうかしたの?」
 白い空間で彼は、椅子に腰掛けるようにして片足を抱えていた。僕はその目の前で跪くようにして、彼の顔を覗き込む。
「セシル、──シヴァージが地上に降りたよ、僕らは彼を探しに行かなくちゃならない」
「……知ってる」
「うん」
 僕がその命令を受けたということは、彼もまた同時に受けたということだし、知っているのは分かっていたけど、彼が行きたくないと思っているのも自分のことのように分かっていた。
 シヴァージが降り立った地区は、〈日本〉と言う。僕らには因縁深く、最も忌むべき、だった。
「……仕方がないよ。嫌で嫌で嫌でたまらないけど仕事だもん」
「分かってるよ」
 短く答えてセシルが立ち上がる。
 セシル。
 僕の相棒。……相棒というよりも僕の半身。僕にとっての、僕の全てだ。
 純粋に綺麗な天使。そして純粋すぎるセシルには、きっとこの仕事は痛い。欲望はないけれど感情がある僕らは胸の痛みをよく知っていた。
 セシルが僕を振り返る。……心と同じくらい繊細で綺麗な容貌。僕は彼のことを愛している。
「行こうか」
「行こう──アーチィ」
 返ってきた彼の声は小さく、けれどはっきりとしていた。

 匂いを追って最初に辿り着いたのは、大都市の中の比較的小さな街の駅前、乱立するビルディングの隙間だった。
 朝靄のかかる、汚い露地裏。
「……ここ、だよね」
 僕は隣に立つ白いスーツにそう話しかけた。セシルは白いスーツ、僕は黒いスーツを着ている。二人で見立てた仕事用の格好だ。二人の違いを明瞭に分けるためもあるけど、そういう規則があるわけでもなく単なる好みの話。
 狭いビルの谷間はただゴミが散乱しているだけで、人影はどこにもなかった。
「だな。ここからどこかに移動したらしいけど、よく分からないね」
「……見失っちゃったかー」
「匂いを追えない……まずいな」
 僕らは、仲間同士をなんとなく嗅ぎ分けることができる。匂いではなく光や音のように・感じる仲間もいるらしいけど。
 まずいな、と言ったセシルを僕は訝しく見やった。いやな予感。
「匂いを追えないって、」
「分からないけど」
「もしかして」
「……契約を結んだのかもしれない」
「ええ!? 契約なんか結んじゃったら、天上に返しにくくなっちゃうじゃん!」
 ──〈魂〉そのものとして存在する僕たちが、地上で肉体の契約を結べば、その〈力〉は制御され、気配も薄まり探しにくくなる。それに契約を解くのにも、いろいろと面倒だった。あーあ、仕事が長引くのだけは避けたいのに。と僕はぶうたれた。
「ここで途切れたのなら、契約は近いところで結んでいるに違いない。とりあえず遠くは行ってないはずだから」
 冷静に告げる彼を見やり、僕は頷いた。つまりこの付近で、聞き込みをすれば良いということ。
 ……僕らは人外の存在で、確かに肉体の制約を受けない分エネルギーが有り余ってたりして、そういう能力使えばすぐに見つかるかもしれないけど、残念ながらそう簡単には使ってはいられなかった。基本的には仕事以外では〈人界不介入〉が鉄則だからだ。
 地道な仕事になりそうだ。
 僕は空を仰ぎ、ビルディングに囲まれたその狭い空に思わず嘆息を洩らしていた。



To be continued
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水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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