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 僕が突然ビルに囲まれた街の片隅に現われてから、どれだけこうして座り込んでいたんだろう。気付けば、辺りはすっかりと暗くなっており、あれほど賑わっていた街の人通りも少なくなっていた。
「大丈夫?」
 声につられて上げた視線の先に、夜の暗闇の中で街灯の光に照らされて、ビルの角から顔を覗かせた少女が見えた。僕は真っすぐに彼女を見る。
「行き倒れ? ケガしてるの? ……救急車とか警察とか呼んだほうがいい?」
 顔はよく見えない。けれどその声ははっきりとしていて、優しく心配げだった。
 僕は首を傾げる。ケガ? してない。救急車や警察? ……それが何の為の組織か基礎知識は覚えていたけれど、自分に必要だとは思えなかった。
「いいえ、行き倒れもケガも警察も、いらないです」
「そう?」
 答えれば、沈黙が落ちた。
 時折通る人の足音、断続的に走り抜ける車の騒音。……彼女はまだそこにいて、僕の方を見ていた。僕も目を離せずにいた。
 暗闇に浮ぶ彼女の肩はほっそりとしていて、どこか頼りなげだ。
 ──少女。
 自分が求めているのは<彼女>ではない。それだけは明確に分かっているのに、僕は目が離せないでいた。ずいぶん長い間そうして見つめ合い、ふと彼女がまた口を開いた。
「……ねえ、なんでそこにいるの? 酔ってるの? そのまま路上で寝たら、死んじゃうよ、いいの?」
 矢継ぎ早のその質問の一つ一つにどう答えようかと僕は少しの間、黙る。
 彼女は繰り返した。
「死にたいの?」
「死にたくは、ありません。けれど、僕は自分がなぜこんなところにいるのか分からなくて、どうしたらいいのかも分からないので、ここでずっとこうしているんです」
 丁寧にそう返す。なぜだろう、僕はきちんとしたしゃべり方さえ忘れたように、はきはきと言葉を発音しなくてはいけなかった。……そう、まるで初めてこの言語をしゃべるかのように。
 彼女もそう思ったに違いなかった。彼女は首を傾げる。ビルの角にしがみついたまま、まだ近寄ろうとはせずに。
「あなた外国の人?」
「……分かりません」
 本心だ。僕は彼女の不安げな眼差しを見返して、安心させるように僅かに笑んでみた。
「どうやら僕は記憶喪失のようなのです」
「…………」
 彼女は困ったように顔をしかめた。
 どうしようか、とても迷っているかのように彼女は顔をしかめていた。

To be continued

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水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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