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「思い出した、水江はバテてる、だっ」
 ようやく会話の発端を思い出して真也がそう叫ぶ。郁が首を傾げた。
「水江くん、バテてるの?」
「え? 違う違う、ぼけてるって話」
「ボケでバテてる?」
 なんだかもうわけがわからない、と水江が肩を落としたところで、真也がまた話がねじ曲がらないようにと慌てて口を開いた。
「そうじゃなくて真面目な話! 水江、飯きちんと食ってるかって話だよ」
 顔を拭いたタオルを首にかけて、真也の言葉に水江は肩をすくめる。
「ご飯? 食べてるよ。なんで?」
「だって今おまえひとりなんだろ。飯、どうしてるんだよ」
 真也の真剣な眼差しがそう尋ねてきて、水江は少し笑った。どんなことでも心配されるのはどこかくすぐったく、心地良い。
(実際には真剣に心配されるようなことはなにもないけど……)
 ふとそう思って水江は僅かに目を細める。真也の問いに振り返ったときには、けれどすぐに笑みを浮かべていた。
「一応、なんとか自炊してるよ」
「へえ、水江くん、自炊? すごいね!」
 感嘆の声をあげた郁を見下ろして、微笑みながら水江は頷く。
「結構料理っておもしろいね。って言っても大したものは作ってないけど」
「……暖めただけの料理とか?」
 疑わしそうに真也が尋ねたそれに図星をつかれながらも、水江は笑ってみせた。
「きちんと作ってるってば。そりゃ、さすがに栄養バランスなんて計算しないけど、きちんと野菜とか繊維とか気ぃ配ってるよ」
 カロリー計算は郁の方が得意か? そう言って水江は笑えば、今度は郁は不思議そうな顔をして首を傾げる。
「うーん、じゃあ寝てる?」
 二人がかりの心配攻撃だ。水江はなんとなく怯みながらも、笑顔でうそぶいた。
「寝てるよ、もちろん。部活が始まる時間までぐっすり」
「──で一生懸命部活して運動して、帰って・飯食って寝るわけか。健康的だよな」
 しみじみと真也が言って納得し、水江はにこやかにそれに頷く。
「そ、昼起きてご飯食べて学校行って部活して家帰ってご飯食べてごろごろして寝て、一日終わり。健康的だろ?」
 ……単調な生活の繰り返し。ループにしてただ回り続けるだけのような毎日。日常というよりも非日常的なくらいに何も考えないでいい生活で埋められて。
「大変じゃないの、家事?」
「ん? 別に、自分の分だけだし」
「でも部活してそのあと更にっていうの疲れない? いきなりそういうのって慣れないうちは手抜かないと、倒れちゃうよ」
「ほら俺ん家もともと人いないから、慣れてるんだよね、家事とか。だから平気」
 郁のその気遣う言葉に水江は微笑みを返しながら、そうなふうに答える。
(余裕なんていらない)
 倒れてもいい、と思う自分を水江はよく分かっていた。今はただ疲れていたいのだ。
(忙しさが欲しい)
 何も考えずにいられる、煩わしい色々なことを思い出さずにいられるように。だから水江は笑って続ける。
「ま、他にやることもないしね。……ああ、そうだ。俺今からちょっと裏山まで走ってくるから二人は先帰っていいよ」
 そう唐突に水江が言い出すとすぐに郁が不満の声をあげた。
「ええ? なにそれ!」
「うん、なんか走り足りない。多分一時間ぐらい走り込んでくるから、先帰りなよ」
 走って、忘れたいから。
 夏の太陽は傾いてもなおまだその光は強さを失わない。気が狂いそうになる暑さのなかで走り続ければ、少しは気が紛れるような気・がした。
 郁は唇を尖らせて、拗ねてみせる。
「やだ私待ってる」
「……今のヤダは、いち、先に帰るのが嫌、に、俺と二人で帰るのが嫌。さてどっちでしょう?」
 そんなふうに真也が言って、あっはっは、と軽やかに水江は笑った。そういうくだらないやりとりはいつも楽しくて気が楽だとも思うけど。
 好きだ、と思うけど。真也も、郁も。
(──けど、違うから)
 自分は彼らとは違うから。好きだと思っても大切だと思ってもいつまでも一緒にいたいと思っても、きっと最期には泣けないから。祖父が死んだときと同じように。
(俺は、おかしいから……)
 生前に祖父の提案した早すぎる納骨もいくつかの法事の中止も、躊躇わずに同意して、彼の遺骨が墓石の下に消えていくのを平気で見ていた。葬儀のときも火葬のときも納骨のときも結局一度も泣かなかった。その可愛げのない様子を周りは気丈と評したけれど。
 気丈なのではなくて、ただ自分は。
(──だめだ)
 水江は胸から溢れだしそうになった恐怖のような激情を唇で押し止めた。
(はやく)
 早く、走って、全部忘れて。
 水江は和やかに続く二人の会話に微笑みを返して、結局郁のわがままも真也の深遠なる悩みも聞かなかった。
「悪い、また明日。じゃあ」
 なるべくあっさりとそう言い切って、水江はすぐ二人に背中を向けると走りだした。



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Comment
  LandM [URL] #19fPlKYU
どうも、初めましてです。
LandMと申します。
場末でファンタジー小説を書いているものです。
日常の光景も詩人的に描写するやり方は非常にうまいなあ……と思います。私の尊敬するゲームシナリオライターもそういった描写をされていたので、それに似ている雰囲気があって非常に好感が持てますね。引き続き読ませていただきますね~~。楽しみにお待ちしております。
  2010.04.06 Tue 22:44 [Edit]
  水沢 [URL] #1wIl0x2Y
こんにちわ。はじめまして。
コメントありがとうございます。

風景描写や心情表現はバランスが大切だなあと掲載しながら思っています。十年前の作品とはいえ、まだまだだなあと痛感。

若干手直ししつつも引き続き連載していきますので、またぜひ読んでいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
  2010.04.07 Wed 21:33 [Edit]






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水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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