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 直感は、多分正しい。
 それはそれでいい。三角形の甘く穏やかで繊細なバランスはそれでも多分壊れないだろうとも、思う。バランスを壊すのは──自分だ。
(壊れてるのは、俺)
 水江は笑みを顔に張りつかせたままで、二人を見やった。
「だって、付き合ってるんでしょ、ご両人」
「──違っ」
 反射的に返った真也の言葉は中途半端に途切れる。否定しきれない素直な真也が彼らしくて、水江は何故だか嬉しくなる。
「違わない。なんとなく分かるよ。いつからかは全然知らないけど」
「知らなくて、当然」
 慌てふためく真也とは対照的に返ってきた郁の声は落ち着いていた。水江は笑んだまま彼女を見やる。大したわけもなく気分が高揚しているのが分かった。
「まだ付き合ってないもの」
「……まだ?」
「うん。真也くんから告られたし、私も同意したけど、まだ水江くんには同意してもらってないから」
「なにそれ」
 水江は薄く笑った。
「俺って二人の親か神父かなにか?」
 唇に刻む笑みが深くなる。身体の内側から震えて、笑みが笑いに変わりそうだった。哄笑に似て、気が変になりそうな予感。
 不吉な風はまだ吹いている。……閑静な住宅街を埋める夜の暗闇。暗い夜道を照らす規則的な外灯の青白い光が、ぼんやりと浮かび上がる。
「水江くんは私達の大切な人。私達は三人で一緒なの。だから、」
「だから? ……もし俺が駄目だって言ったら、別れるの?」
「…………」
 二人が黙り込み、無言で顔を見合わせた。
 その二人の間に繋がった視線の接点を見つめて、水江はすでにある二人の間の親密さを知る。
 不可思議な感じだった。それを許せないと思っているのか、喜ばしいことだと思っているのか、それとももっと他のことを──。
(……許せない?)
 胸を渦巻く感情はなんだろうか、水江は分からなかった。茫然と目の前の友人たちを見つめながら、無意識に唇が動くのを水江は感じていた。
「……いつから? どうせならもっと早く教えてくれたら良かったのに」
 そうしたら、こんな。
(疎外感を──)
 そう思った瞬間、水江ははっと自分が何にそれほど衝撃を受けていたのか気付いた。唇はまるで水槽で酸素を求める魚のように、他人事のように空虚に動く。
「……なんで、もっと早く、」
「いろいろ、忙しそうだったし。なんか三人で一緒にいるほうが多いし、それで何にも問題なかったから、……もう少し落ち着いてから話したほうがいいかと思って」
「……同情?」
「そういうわけじゃ」
「俺が可哀相だから、黙ってたの?」
「…………」
「──ごめんね」
 答えられなくて口を噤んだ二人を見やり、あっさりと水江はそう言った。はっと二人が驚いたように顔をあげる。水江は見つめられて、そっと見返す眼差しを和らげた。
「責めるつもりじゃないんだ。聞きたかっただけ。……ごめんね。俺の許可なんてどうでもいいよ、俺はただ、」
 ただ。
 秘密なんてなしにしてほしかった。仲間外れなんてしてほしくなかった。俺を、ひとりにしないでほしかった。ただ、一緒に。一緒にいたくて。
 水江は真也と郁にもう一度笑いかけた。
「俺、帰るよ」

 ……自分はどこに帰るのだろう。
 どこにいくのだろう?
(よく、分かんない)
 ここはどこなんだろう。
 暗い夜道をひとりで歩いていると、今自分がどこにいるのかが分からなくなる。住宅の続く通りは静寂に埋め尽くされ、規則的な外灯の明かりはまるで異界へ導く誘導灯のようだった。水江は覚束ない足をただ夢中で動かす。後ろから声が呼んだようだったが、聞こえなかった。
 猜疑心や不信や不安で胸が一杯になる。そんな自分が嫌でたまらない。
 異質、嫉妬、仲間外れ、憎悪、友愛、違和感、苦痛、羨望、裏切り、孤独、理想、自己嫌悪、敗北感、虚無、切望、疎外感、諦め……。胸のうちに渦巻く全ての感情を殺してしまおう、そう水江は強く願う。
「……水江くんっ」
 目を閉じて、耳を塞ぎ、全てをもう見たくなどない。
(誰も、いない)
 シアも真也も郁も、誰も信じられない。
「水江くん、待って。水江くん!」
 慌ただしく走る足音、叫ぶように呼び止める声に、それから……。
 ふと水江は我に返った。聞こえたのは車の走る音だった。ようやく水江は自分がどこを歩いていたのか気がついて顔をあげる。いつのまにか住宅街を抜けて出た暗い車道を、渡っていたのだ。
 奇跡的に水江は車と接触することなく、車道を渡り切っていた。そのことをふと理解した、途端──。
「──郁っ!」
 真也の声が鋭く鼓膜を劈いた。
 反射的に水江は振り返る。その、視界に映ったのは、暗闇の中の光だった。車のライトだった。光に照らされて、浮かび上がる小さな影。
「────!!」
 一瞬。
 時間が止まったようだった。静止画像がスローモーションで動きだす。飛び込んでくる真也の姿、振り向く郁の影、つっこんでくる車の光。
 映画みたいに。
(静謐)
 動かなかった。足が、動かなかった。水江は見開いた視界でただ茫然と見ていた。……ただ茫然と、胸に湧いた感情を抱いて、その一瞬の剥出しにされた生と死の交錯を見つめていた。
(……無垢)
 甲高く擦れるブレーキの音が耳を劈いた。
 様々な感情の交錯。火花のように激しく光る一瞬の、美しさ。
 水江は絶望に身体を震わせながら、強く瞼を閉じた。強く唇を噛んだ。強くその身を抱き締めた。
(──歓喜)

--To be continue--
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水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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