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(綺麗なのは、シアだ)
 強い陽射しが生徒玄関前から正門まで続くコンクリートの道を白く灼いていた。その眩しい白に水江は目を細める。
(眩しいのは、シアだ)
 ……すでに午後四時を過ぎているというのに、盛夏の陽射しは未だ和らげる素振りも見せない。南から吹く風は肌にまとわりつくようで部活の後の汗だらけの身体に、更なる不快感を煽っていた。
「……暑ぃ」
 校舎から外に一歩踏み出した途端、隣で真也がそんな呟きを洩らして、水江はふと我に返り顔を上げた。言ったところで気温が下がるわけでもないとは分かっているが、言わずにはいられないのだろう。
「暑いね」
 同じように水江もそう相槌を返す。真也はTシャツの胸元を引っ張って扇ぎながら、むっと押し寄せる熱気に顔をしかめる。
「……こういうの、うだるような暑さって言うんだろうな」
「うだるね」
「うだるな」
 無意味な会話を繰り返して、二人して深いため息をついた。午後一時から三時半までの炎天下での部活動で、すでに体力は消耗し切って、もうため息をつくぐらいの元気しか残っていない。
 グラウンドを延々と走り続ける作業は、強い陽射しの下では拷問に近い。だがそれは屋外競技の部活にとっては逃れられない運命なのだ。……たとえ水江のように走るのが好きでも、暑いものは暑い。
「……郁は?」
 いつもなら体育館脇のベンチで待ち合わせるところだが、今日は校内にちょっとした用事があって待ち合わせは玄関だった。外の暑さにへばって口をだらしなく開けながら、真也がそう水江に問う。
「図書室じゃない? 今日開館日らしいから」
「おまえ、いいの?」
「俺は、近くに図書館あるから」
「図書館。もう何年行ってないだろ……?」
 本を読むのは、郁と水江の共通の趣味だった。仲間外れが嫌だと主張する真也も、こればかりには参加できないようだ。
「よく読めるよな、あんなもん。俺、なんか本がこうぎっしり並んでるだけで駄目。図書館だなんて、目眩しそうだ」
「図書館は冷房が効いていて涼しいよ」
「…………」
 水江のたった一言で、図書館に行ってみるべきか否か真也が深刻に悩み込み、水江は笑った。丁度そこに遅れて郁が玄関から出てくる。
「──ごめん、待った?」
 軽やかなその声に笑みを浮かべながら、水江は振り返る。
「うん、待った」
「……こういうときは、全然待ってない、って言うのが礼儀よ」
「うん、俺もう全然全く一秒も待ってないよ」
「…………あれ? 真也くん、どうしたの?」
 水江との言葉遊びに複雑な沈黙で答えてから、郁はその隣でうんうん唸っている真也を見つけて首を傾げた。水江は笑う。
「人生の深遠なるツボにはまったんだ」
「ふうん……、置いてく?」
「お姫さまの望むように」
「よし、置いてこ。あ、ねえ帰りにアイス食べてこうよ、水江くん」
 あっさりと郁はそう真也を捨てて、水江を誘い歩きだす。悩むふりをしていた真也が慌てて顔を上げて追いかけた。
「俺もアイス!」
 平和なひとときだ、と水江はこんな瞬間に微笑む。穏やかで甘く、自分が異端であることも忘れて、こんな日々が続けば良い。
(シアがいて、真也と郁がいて)
 それで。
「なんか最近俺って仲間外れにされてない?」
 置いていかれそうになった真也が拗ねて郁と水江に文句をたれるのを聞きながら、三人で生徒玄関から正門までの短い舗装された道を歩く。……和やかな時間だ。水江は真也の拗ねた口調に、更に彼を苛める言葉を吟味しながらそっと笑った。
「仲間外れ? してるわけないだろ。大体こうやって一緒に帰ってやってるのに、その言い様は不愉快だね」
「だよね、もう少し真也くんは感謝の情っていうのを覚えるべきだよ」
「そうそう、忍耐強い俺達にもっと感謝と尊敬の意を表してほしいね」
「……なんで俺が感謝するの?」
 仲間外れにされたのは俺じゃないの? と真也がそう不思議そうに呟きを洩らし、二人で笑いながら、正門の外に出る。
 学校から少し離れたところにあるバス停に向かうために、正門の目の前の通りを左に曲がり──。
「────」
 そこで三人は奇妙な人影を見つけて、ふと互いに口を噤んだ。
 ……黒い影だ。正門から学校の敷地を取り囲むように続いている背の低い壁に、背中を預けるようにして地面に座り込んでいる。光沢のある黒い革のスリムパンツに黒いタンクトップを着て、黒いサングラスをかけた、黒ずくめの一見してまだ若い男だった。
 血のような暗い赤みを帯びた黒い髪はぐしゃぐしゃにセットされ、露になった耳にはいくつものピアスが見える。
 こういう奇妙な風体の男には関わらない方がいい。暗黙の了解でそう三人は黙り込んで、そのままその男の前を通りすぎようとした。
 途端だった。
「──あんただろ」
 不意に足元から鋭い低い声がそう三人に投げつけられた。どこか剣呑に喉で擦れるその声に、思わず三人は足を止めて男を振り返っている。
 ……男も顔を上げて、確かにこちらを見ていた。男を見下ろし、水江と真也はなんとなく郁を自分たちの背中に押しやっている。彼はそんな三人の様子を眺めやって、どこか愉快げに笑い声を洩らした。サングラスの奥の瞳が楽しげに揺れているのが、水江にも見えた。
 男の声は喉で擦れる。
「そんなバカオンナに興味ねえよ、俺が興味あるのはその隣のお兄さん」
 笑いを収めて男が顎でしゃくったのは、水江の方だ。
「あんただ」



--To be continue--

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水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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