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 全身から力が抜けていく。
「僕は、別に君が憎いわけでも嫌いなわけでもないし、幸せになりたいと思うことは悪いことじゃないと思うけど、」
 ふと悪魔が小さく呟いた。どこか憐れむような色を感じて、あたしはぼんやりと彼を見やる。
 彼はそんなあたしをちらりと見て、でも残念だけど、と言った。言いながら彼は冷静だった。その後ろでハルは真っ青な顔をして震えていて、この間から酷薄なことばかり言っていた白い天使はなぜか黙りこんでいた。
 ……奇妙な感覚がした。ざわりと肌を撫でる不穏な予感。
 なんだか変だ。
 変だ。
 どうして今、あたしはまるで裁定を受けるかのように、彼と向き合っているのだろう。
 黒い悪魔はあたしを見下ろした。
 そして彼は宣告する。
「──君には、死んでもらうよ」

 待ってください!! と誰かが叫んだ。
 ハルだ。
 だけどなんだか感覚が遠い。
 死ねばいいのにとかぶっ殺すとか、一時的な感情に突き動かされて吐き出す言葉とは違って、こんなにも殺意のない淡々とした殺害予告はないな、とあたしはぼんやり考える。
 ……ああ、〈悪魔〉だもんね。
 あたしは黒い悪魔を見つめた。しょうがないか、と思った。きっとあたしには最初から資格がなかったんだ。愛される資格なんてなかった。幸せになる資格なんてなかった。
 無駄にあがいていただけなんだ。
 愛されないなら、生きている意味がない。
 だから、仕方がないんだ。
 ゆっくりと〈悪魔〉があたしに近づいてくる。
「待ってください!! ──美帆さん! 美帆さん!! お願いです!」
 その後ろからハルが訴えった。
 今までにないくらいの必死さで。切ないほどの必死さで。
「愛してください!!」
 え?
 なに? って思った。
 ハルが初めてあたしにお願いした。懇願した。
「自分のことだけじゃなくて! きちんとあなたの子どもを愛してください!!」
 それは。
 心からの叫びのように。
「美帆さん!!」
 力強く名前を呼ばれて、あたしははっと目を瞬かせた。
 もう悪魔は目の前まできていた。冷然と見下ろして、手のひらをあたしへ向ける。
 彼を包む空気が重く暗く、ひずむように圧縮されていくのが分かった。黒い光が渦のように彼に集まっていく。
 まるで時が止まったかのようにあたしは感じた。
 ──愛してください。
 ──愛してください。
 ──あなたの子どもを、愛してください。
 ああ、そうか。
 あたしは悪魔を見つめていた。見つめながら、その最後の一瞬に気が付いていた。
 あたしはただ求めていた。
 一方的に。押しつけるように。利己的に。
 ただ本心から私のことを考えてくれるひとが欲しかった。〈本当〉が欲しかった。だから叱って欲しかった。自分のことばかりでだめなんだと言って欲しかった。
 ──ハルのように。
 見つめる先で、重く黒い光がまっすぐあたしに向かって。
「────」
 覚悟したその瞬間──。
 黒い光が目の前でパァンッ!! と弾けた。
 重く圧縮された力が弾け、波紋のように空気を震わせ広がっていく。
「!!」
 あたしは目を見開いた。
 向けられた悪魔の〈力〉を防いでくれた存在がいた。
 瞬時にして現れた、赤い髪をした見知らぬ青年。
 ──いや、違う。まるであたしをかばうように立っていたのは、赤い髪の青年と、白いスーツを着た〈天使〉の二人だった。


To be continued
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水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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