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 思わず叫んでいた。
 違う。もう違う。ハルはもう前のハルと違う。
 どうして? ……あたしが妊娠しているから? 男とセックスして避妊に失敗して子どもなんか孕んだから? そんな女のことはもう嫌いになった?  だからもうあたしのことは好きでいてくれないの?
「美帆さん? どうしたんですか美帆さん?」
 ハルがうろたえて、あたしに手を伸ばそうとする。それをあたしはほとんど反射的に払った。その途端、バランスを崩して床にへたりこむ。冷たくて硬いフローリングの感触が素足に触れて。
 瞬間、不意に白と黒の影が脳裏をよぎった。
 ──……ねえ、もし君が〈彼〉のことを想うなら。
 ──頼むから、諦めてくれ。
「嫌!!  そんなの嫌よ、嫌!!」
 たまらず床に向かって叫んでいた。
 だってそんなの嫌だ。絶対に嫌だ。……あたしにはもうハルしかいないのに。あたしのことを好きでいてくれるのはハルしかいないのに。
「……美帆さん?」
 ハルは困ったように膝をついた。おろおろとして、うつむけた顔を覗き込んでくる。気遣うような顔、優しい声。繊細な指先が静かに頬に触れて──。
「ハル!!」
 あたしは彼の身体に抱きついた。その背中に必死で爪を立ててしがみつく。
「ねえそばにいて。ずっとそばにいて。あたしのこと好きでいて」
「……美帆さん」
「お願い、ハル!!」
 そんなに難しいことは要求していないはず。
 そばにいて。
 あたしを見て。
 あたしを愛して。
 ──特別なものなんていらない。きちんと本当に、当たり前のように、ただ愛して。
 欲しいのは、ただそれだけ。
「……あたし、妊娠なんてしてない。絶対してない。子どもなんかできてない!! だからあたしのこと嫌いにならないで。あたしのこと見捨てないで!!」
「美帆さん、……そんな、」
 慄然と身体を震わせて、ハルが言葉を失った。震えた手があたしの肩を掴み、やさしい仕草で身体を離せば、怯えた眼差しでまるで乞うようにあたしを見る。
「そんなこと、言わないでください。あなたのお腹には子どもが、大切な子どもが、」
「知らない!! 子どもなんていらないの! あたしは子どもなんていらない! あたしはそんなもの欲しくないの!」
「……その子は、どうするんですか」
 問いかけるハルの声が、か細く掠れた。
 消えてしまいそうなハルのはかなさが怖くて、あたしは強く強くハルの腕を掴む。
 ──ハルは、優しい。
 ハルはあたしのためになんでもしてくれる。いつもそばにいてくれて、あたしを見ていてくれる。ハルはきちんとあたしだけを。
 だから。
「──堕ろすわ」
 告げた瞬間。
 目の前の世界が、白い光に包まれた。



To be continued
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水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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