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   11 ほんもの



 ……気持ち悪い。
 吐き気がする。
 でもここ数日ほとんど食べてないから吐くものがない。いろんなものが鼻について気になって仕方がなくて、なにも食べる気がなかった。
 目の前にはゼリーの入ったグラスがあった。陽菜の手作りだ。陽菜は意外と乙女で、昔からお菓子を作るのが好きだった。彼女がつくったお菓子がおいしいのはよく知っている。だけど今はどうしても食べる気になれないのだ。
 その原因を想像して、あたしはぞっとする。
 冗談じゃない。あたしはただ体調が悪いだけだ。きっと風邪をひいてしまったんだ。風邪菌がおなかについて、それで気持ちが悪くなっている。それだけだ。それ以外の理由なんて、考えたくもなかった。
 苛々して、あたしはソファから身体を起こす。なにかを投げたい気持ちがしたけれど、目の前には本当にゼリーぐらいしかなかった。
「ハル。これ、片づけて。……ハル?」
 ほとんど無意識にその名前を呼んだけど、ハルはいない。そうだ。あたしが買い物に行かせたのだ。突然わけのわからない、変なこと言うものだから。
 ──もしかして、お腹に。
「っ!!」
 あたしは苛立ちまぎれに、携帯電話をソファに投げつけた。それでも気持ちが収まらなくて、ソファの上のクッションをリビングの床に投げ捨てる。リビングの端を歩いていた黒猫のエディがびっくりして逃げて行った。
 ああもういやだ。もういやだもういやだ!!
 なにもかもが嫌だった。うんざりだ。不愉快で腹立たしくて気持ちが悪い。
 どうしてこんなふうになってしまったんだろう。
 あたしはただ幸せになりたかっただけなのに。
「──ハル?」
 玄関の音がして、あたしははっと顔をあげた。ソファから飛び降りる。リビングのドアが開くとほとんど同時にあたしはハルに抱きついていた。
「ハル、ハル、ハル」
「……美帆さん、」
 あたしの勢いに圧されながらもハルはあたしを抱きとめる。コンビニ袋が彼の手からすり抜け、床に落ちたのが分かった。それから暖かい手のひらがあたしの背中を優しく撫でて、なんだかそのぬくもりに泣きたくなる。
 ハルに触れていると心が落ち着く。それでいて同時にあたしはたまらなく不安になった。
 ……どうしよう。どうしたらいいんだろう。もう全てが終わりのような気がする。
 だってまさかお腹に──。
「美帆さん?」
 あたしの震えが伝わったのか、ハルが戸惑ったように名前を呼んだ。それからいたわるように背中を何度も撫でて。
 ……戸惑う?
 はっとあたしはハルの胸を押していた。
「──なんで?」
「美帆さん?」
 突然の問いかけに、彼は驚いたような顔を見せた。あたしがなにを問うたのか分かっていない。彼自身は気づいていないようだった。その抱擁がいつもと違うことに。
 ──もしかして、お腹に、子どもがいるのではありませんか?
「どうして!?」


To be continued
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水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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