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 もとからシヴァージは物静かで大人しく優しい〈悪魔〉だ。
 セシルとは違う意味で、シヴァージは優しすぎる。
 もしくは弱すぎる、と言うべきなのかもしれないけれど。
 その彼が、コンビニだかスーパーだかに向かって歩き出した足を不意に止めて、空を見上げた。なにかを祈るような眼差しで。
「……あれ、もしかして僕たちを探してる?」
 僕の思いつきに、セシルも同意した。
「そうかもしれないな」
「行く?」
「行こう」
 決まったら一瞬だ。
 次の瞬間には、僕たちはシヴァージの目の前に立っていた。突然の出現にさすがに驚いた様子で、彼が目を瞬く。
 僕は冗談めかした。大きく腕を広げて見せる。
「深刻そうな顔をして悩みごとかい? そんなときはぜひ〈あーちゃんよろず相談室〉へ!」
「……あの、」
 そのノリに残念ながら彼はついていけなくて、ひどく困ったような顔を見せた。
 どうやらすべてを思い出した、というわけではないらしい。僕たちの友人であるシヴァージなら、きっとそんな僕の冗談に、優しく笑っただろうから。
「あの、教えてください」
 けれど今、彼は途方に暮れて、笑顔なんて一切なく、まるで絶望の底にいるかのように僕と向き合っていた。
 夜を迎え入れたばかりの、薄暗闇に包まれた住宅街の道端。
 どこかから漂ってくるカレーの匂いがいやにのどかなのに、僕たちは深刻だった。
 シヴァージが取りすがるように僕たちを見る。
「僕はなんなのですか? あなたたちはなんなのですか? 僕はどうしたらいいのですか? 僕はどうして──」
「ストップ! ちょっと落ち着いて! 質問より先に、」
「そう。私たちが君の質問に答えるより先に教えてくれ」
「ねえ、君、どこまで思い出したの?」
 僕たちの問いかけに、シヴァージは眼差しを揺らした。よく知らない不審者相手にも素直に対応しようとする誠実さは彼らしい。
「……よく分からないんです。僕は〈大切なもの〉を探していた。長い間。そうずっと、です。でも僕はそれがなにかは知らなかった。──ついさっきまで」
「で、気づいちゃったわけだ」
「彼女のお腹にいる子どもが──君の〈大切なもの〉だと」
 セシルが静かにはっきりとそう告げた。
 はっと彼が顔を上げる。悲愴な顔をしていた。訴えるような目で僕らを見つめて。
「どうしてなんですか? 僕は〈彼女〉を愛おしいと思う。僕を助けてくれた。優しくしてくれた。とても感情豊かで寂しがりやで優しいひとです。僕は彼女が好きなんです。だけど、彼女のお腹の中には僕の〈大切なもの〉がいる……。僕は〈彼女〉を好きでそばにいるんですか? それともお腹の中に子どもがいるから──」
 一気にそうしゃべり、それから苦しげに彼は目を伏せた。
「分からない。なぜ、その子が僕にとって大切なんですか。なぜ〈彼女〉ではないのですか。僕はなんなんですか?」
「君は〈悪魔〉だよ」



To be continued
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水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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