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 ──セシル。
 セシル。
 僕の天使。
 美しく、繊細で傷つきやすく、愚かなほど弱く脆い、僕の天使。
 もちろんセシルは契約の強制解除なんて望まないだろう。そんなこと指摘されなくてもよく分かっている。そしてセシルは契約継続してシヴァージが堕ちることだって望んでない。当たり前だ。それは〈半身〉への裏切りだ。僕らがもっとも嫌悪し忌避しているものなのだから。
 ──そう。どんな結果だって彼は心を痛めるのだ。
 だったら僕ができることはただひとつ。
 彼の痛みを最小限にすること。
 セシルが望もうが望ままいが、僕はそのためならなんでもする。
「──アーチィ?」
 後ろから抱きしめた。
 セシルは驚いた様子もなく、顔だけを少し動かして僕を振り返る。
 僕たちは地上にいても実態がないから、抱きしめたと言ってもいつだってイメージでしかないけれど。僕は強く強く彼を抱きしめる。縋るように。
「単独行動は嫌いだよー。離れ離れはよくないね! すごくよくない!!」
「……ああ、そうだな」
 肩に顔をうずめていても、セシルがふわりと微笑んだのが分かった。
「ただいま、セシル」
「おかえり、アーチィ」
 そう僕を迎え入れる、きらきらと煌めく硝子のような繊細な美しさ。だけど僕はそれを生々しく拳で壊すように、天上から持ち帰った答えを告げた。
「──是だ」
 強制解除もやむなし。
 それが天上の答えだった。
「……そうか」
「うん」
 抱きしめたセシルの心が、伝えた瞬間にすっと冷えていくのが分かった。
 優しいセシル。可哀そうなセシル。
 ……僕たちはそうやって心を寄り添わせながら、足元を見下ろした。
 例の〈少女〉の家だ。屋根の上にいても、僕たちに物理的な存在は大して障害にはならない。目で物を見ているわけではないから、屋根も壁もその存在を感じながら、集中をすればシヴァージと少女が家の中でなにをしているのかが分かるのだ。
 二人はリビングにいた。
 少女は不機嫌に黙りこみ、そのそばでシヴァージが途方に暮れている。
「……彼女の胎の中に、子がいることを知ったところだよ」
「気づいたの?」
「シヴァージが」
「へえ。記憶、戻ったの?」
「どうだろう。完全に思い出したかどうかは分からないな」
 セシルの解説に僕はもう一度、へえ、と呟く。ちょっと離れていただけで、ずいぶんと状況は変化するものだ。
 シヴァージが思い出した?
 なら、また方法は変わる。
 んーと唸りながら、僕はセシルから離れると、身体を宙に浮かせてくるりと回った。考えをまとめるための、ちょっとした気分転換。
「思い出したなら、チャンスはまだ残されているかも」
「チャンス?」
「自発的な契約解除」
 シヴァージが〈少女〉ではなく〈半身〉を選ぶことで、頑なな〈少女〉の心を動かせるかもしれない。彼女自身から、シヴァージを手放させることができるかもしれない。
 言えば、セシルは疑い深く顔を歪めた。
「ずいぶん希望的観測だな」
「……まあね」
 確かにかなり甘い期待で、僕は肩をすくめてみせた。それから二人の様子を見下ろす。
 あれ、と僕は足下の状況の変化に気がついた。
「シヴァージが出てきた」
 少女に半ば強制的に買い物を言いつけられたシヴァージが、そばから離れることをためらいつつも彼女の命令には歯向かう様子もなく素直に玄関を出てきたところだった。


To be continued
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水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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