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 突然言われて、私はびっくりして背中に張り付くようにしている私の悪魔を振り返った。
「なぜ?」
「……んー? うん。生れてきてくれて、ありがとう?」
「…………」
 むしろ、待っていてくれてありがとう、と私の方が言いたい気分だった。
 だけどきっと言わなくても伝わっていた。
 ふんわりと柔らかな光が部屋を照らしている。それはシヴァージの心の穏やかさなのかもしれない。彼は優しく、少女に語りかける。
「美帆さん、僕はあなたのそばにいることはできません。会うことも言葉をかけることもできません。……それでも僕はあなたを愛しています」
「……ハルはずっと待っていたのね」
 ふと彼女はまだふくらみすら見せていないお腹を静かにさすった。
「ずっと探してた、」
「……ええ」
「愛してる?」
「愛しています。今までも、これからも」
 そう、と呟きがこぼれちる。
「──行くの?」
 少女が問う。だがそれは弱々しくなく苛立たしくもなく、ひどく冷静な声だった。
 シヴァージは微笑む。
「あなたが許してくれるなら」
「……別に勝手に出て行っても良かったのに」
「そんなこと、できませんよ」
「ハル、」
 まるで大切な大切な宝物のことを口にするように、優しく彼女はシヴァージを呼んだ。
「……本当は、〈ハル〉じゃないのね」
「ええ」
「本当の名前、教えてもらえる?」
 シヴァージは首を横に振った。
 ──本当の名前を人間の前で明らかにすることはできない。
 肉体を持たない存在である私たちが、唯一縛られるのが〈名前〉だから。
 そう、と少女は頷く。彼女が変わっていくのが目に見えてわかった。背筋を伸ばして、彼女らしい勝気の眼差しが迷わずまっすぐにシヴァージを見つめる。
「……ねえ、生れてくる子に〈ハル〉って名前、つけてもいい?」
「ええ、」
「だからもう、ハルは〈ハル〉じゃない」
「……ええ」
 ゆっくりと、まるで空が明けていくかのように静かに時間をかけて、シヴァージが解放されていくのが私たちには分かった。まるで暖かささえ感じるような変化だった。
 少女は微笑んだ。
 私たちの目にすら、それは美しく見えた。
「さようなら、ハル」
「────」
 決別の言葉。
 音もなく弾けた。
 薄い硝子が細かく壊れ弾けるように。きらきらと光にきらめくように。
 そしてその瞬間、契約は解かれたのだ。




To be continued
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プロフィール

水沢圭子

Author:水沢圭子
目指せ小説書き。日々の生活に甘んじず頑張るために実験的にブログ小説を始めることにしたくせに、結局書けてません。とはいえ現在は投稿メインでがんばり中。

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